地域を支える「最後のインフラ」が減っている
政府が過疎地のガソリンスタンド(GS)約50カ所を重点支援する方針を打ち出しました。背景にあるのは、地方で進む給油所の減少です。これは単なる事業者の経営問題ではありません。人口減少が進む地域において、自動車を中心とした暮らしが今後どう変わるのかを考える上で重要な動きといえます。
過疎地域では、自動車は生活必需品です。通勤や買い物、通院はもちろん、農業や林業などの仕事にも欠かせません。公共交通機関が限られる地域では、自家用車が唯一の移動手段となっている世帯も少なくありません。
その一方で、ガソリンスタンドの経営環境は年々厳しさを増しています。人口減少による燃料需要の縮小に加え、設備更新費用の増加や後継者不足が重なっています。地域に残る最後の給油所は、住民にとって重要なインフラであるにもかかわらず、採算面では厳しい状況に置かれています。いわゆる限界集落では、給油のために数十キロ移動することが現実味を帯び始めています。
EVは救世主になれるのか
こうした状況の中で注目されているのが電気自動車(EV)です。自宅で充電できるため、給油所が少ない地域との相性は決して悪くありません。日常的な移動距離が比較的短い高齢者世帯であれば、十分実用的なケースもあるでしょう。
しかし、EVがすぐに解決策になるとは言い切れません。まず車両価格が高く、購入時の負担が大きいことが挙げられます。また、中古車市場はまだ発展途上で、選択肢も限られています。山間部では冬場の気温低下によって航続距離が短くなる傾向があり、長距離移動への不安も残ります。
さらに、過疎地域では自宅に充電設備を設置できても、外出先の充電環境が十分とはいえません。停電時には充電ができなくなるため、災害対策という観点でも課題があります。EVは有力な選択肢の一つですが、少なくとも今後10年程度はガソリン車やハイブリッド車と共存する形が続くと考えられます。
5年後、地域の交通はこう変わるかもしれない
今後5年程度で予想されるのは、ガソリンスタンドのさらなる集約です。政府の支援によって一定数は維持されるとみられますが、地域ごとに「拠点となる給油所」へ機能が集中していく可能性があります。
その結果、住民は現在より長い距離を移動して給油することになるでしょう。給油は「近所で済ませるもの」から「計画的に行うもの」へと変わっていくかもしれません。
また、高齢化によって運転免許を返納する人も増えていきます。自治体は乗り合いタクシーや予約制のデマンド交通を拡充するとみられますが、自家用車並みの自由度を実現するのは簡単ではありません。地域によっては、移動手段そのものが暮らしの質を左右する時代になる可能性があります。
10年後に備えて、今からできること
10年後の過疎地域でも、自動車は依然として重要な移動手段であり続けるでしょう。しかし、「近くにガソリンスタンドがある」「必要な時にいつでも給油できる」という前提は当たり前ではなくなっているかもしれません。
だからこそ、個人レベルでの備えも重要になります。次の車を選ぶ際には燃費性能を重視すること、燃料残量に余裕を持って給油する習慣を身につけること、買い物や通院を効率的にまとめることなどが求められます。
また、家族や近隣住民との送迎協力や相乗りといった地域内の助け合いも、今後はより大きな役割を果たすでしょう。人口減少が進む中では、車だけでなく地域全体の移動手段をどう支えるかが問われています。
ガソリンスタンドの減少は、一見すると燃料販売業界の話に見えます。しかし実際には、地方で暮らす私たちの移動の自由や生活のあり方に直結する問題です。政府の支援策は、その変化の始まりを示しているのかもしれません。今あるガソリンスタンドが10年後もそこにあるとは限らない――そんな時代が、すでに始まっています。
